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大阪高等裁判所 平成8年(う)280号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年に処する。

原審における未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。

押収してある自動装填式散弾銃一丁(当庁平成八年押第四四号の1)、茶色と黒色の皮製散弾銃ケース一個(同押号の2)及び替え銃身一本(同押号の3)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人田口公明作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

一  控訴趣意中、法令適用の誤りの主張について

1  皮製散弾銃ケース及び替え銃身の各没収について

論旨は要するに、原判決は、被告人から茶色と黒色の皮製散弾銃ケース一個(前同押号の2。以下「皮製ケース」という。)及び替え銃身一本(クレー射撃用のもの。前同押号の3。以下「替え銃身」という。)を没収しているが、これらはいずれも本件犯行現場に携行していない上、原判示第二及び同第三の犯罪組成物件ではなく、また、替え銃身は前記自動装填式散弾銃(以下、「本件散弾銃」という。)の従物ではないから、いずれもこれを没収し得る要件がないのに、刑法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを没収した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討すると、皮製ケース及び替え銃身を没収した原審の判断は正当として是認できる。

すなわち、原審及び当審取調べの関係各証拠によれば、本件散弾銃は、本体、銃身及び先台で構成されており、右各部は取り外しが可能であるところ、特に、銃身には狩猟用及びクレー射撃用があり、右用途に応じて各銃身を容易に着脱することができる構造であること、大阪府公安委員会発行の被告人の猟銃・空気銃所持許可証には、許可にかかる銃の型式、商品名等、番号などと共に、本件散弾銃に装着されていた狩猟用銃身と替え銃身の双方が明記されていること(なお、右許可証の替え銃身の欄には、本件散弾銃に装着されていた狩猟用銃身が記載されている。)、被告人は、本件散弾銃、替え銃身及び皮製ケースをセットで購入した上、常時、これらをすべて皮製ケースに収納して保管し、あるいは、皮製ケースに収納したまま携行し用途に応じて銃身を取り替えるなどして使用していたこと、が認められる。右のような本件散弾銃の構造、公安委員会の許可の関係、被告人の利用ないし保管の方法等にかんがみると、替え銃身は専ら本件散弾銃の常用に供するために付属させられたもの、すなわち、本件散弾銃の従物と解するのが相当である。なお、本件では、被告人が、原判示第一記載の駐車場に軽四輪貨物自動車を停止させて本件散弾銃を持ち出し、約二〇メートル離れた同記載の弁当店に赴き、原判示のとおり各犯行に及んだものであるところ、その際、替え銃身は、皮製ケースに入れて右自動車の荷台に置いたままにしており、右弁当店には携行していないことが認められるが、これは本件犯行という特異な場面では携行する必要性がなかったという特別の事情があった場合であることを考慮すると、右従物性の判断を左右するものではない。また、皮製ケースも同様に本件散弾銃の従物であることが明らかである。そうすると、原判決が、本件事案にかんがみ、本件散弾銃を原判示第二及び第三の犯罪組成物件として没収するとともに、その従物である替え銃身及び皮製ケースについても所論の法条を適用してこれを没収したことに誤りはない。

所論は、前記二本の銃身はそれぞれ用途も異なり両者には主従の関係がないと主張するところ、確かに右二本の銃身のみを取り上げ、その主従の関係を検討する場合には、両者には主従の関係はないというべきであるが、本件では、前記のとおり、機関部である本体を含む本件散弾銃と替え銃身との関係を考察すべきであるから、所論はその前提において失当である。論旨は理由がない。

2  銃の携帯について

論旨は、要するに、銃の「携帯」は瞬間的な携帯(握持)では足りず、ある程度時間的に継続したものであることを要するところ、原判決は、原判示第三の犯行場所について、「駐車場から」と判示するだけで、瞬間的な携帯(握持)にすぎない事実を認定したのみで携帯罪の成立を肯定しており、この点において判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、所論にかんがみ検討すると、「携帯」の意味については、瞬間的なものでは足りず、ある程度の時間的継続性を必要とするとの点は所論のとおりであり、原判示第三事実を見ると、「前記駐車場から」とあるのみで、どこまで携帯していたかについては明確な記載がないため、原判決がある特定の場所における瞬間的な携帯(握持)をとらえて「携帯」と解しているようにも受け取れないわけではないが、関係各証拠によれば、被告人が本件散弾銃を、原判示第一の駐車場から同弁当店内まで及び同店内においても一定の時間、それぞれ携帯していたことが認められるところ、原判示第三には「前記駐車場」の文言の前に「前記のとおり」という文言が記載されており、これは原判示第一における右駐車場から右弁当店内まで及び同第二における右弁当店内での一定時間の各携帯の全体を包含する趣旨であると解される。そうすると、原判決は、原判示第三の事実について、継続的な携帯を認定しているものと解することができ、所論のような法令適用の誤りを犯しているとは認められない。論旨は理由がない。

二  控訴趣意中、量刑不当の主張について

論旨は、原判決の量刑不当を主張し、被告人に対して刑の執行猶予を求めるので、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討すると、本件は、内妻のA子(以下「A子」という。)を殺害するため本件散弾銃に実包を装填してA子のいる店に赴き、A子ら三名を右銃で脅迫すると共にこれを発射したなどという事案であるが、A子との別れ話等が背景にあったとはいえ、短絡的で極めて危険な行為と言わざるを得ず、被害者らに与えた恐怖感には相当深刻なものがあることなどに照らすと、被告人の刑責は相当重い。したがって、被告人としては、もともとBに対しては銃を発射する意図はなく、銃を発射したのはつかまれた銃を取り返すための脅しのためであって、被害者らに命中させる意図はなかったと言えること、A子との別れ話がでる前は被告人なりに各被害者の将来のためにあれこれと尽力したことがあること、本件を深く反省していることなど、所論指摘の情状をすべて斟酌しても、原判決言渡し時を基準とする限り、被告人を懲役三年に処した原判決が不当に重いとはいえない。

しかしながら、当審での事実取調べの結果によれば、原判決後の新たな事情として、A子らが内縁生活を通して被告人から深い愛情を受け金銭面や精神面でも世話になり感謝しているとともに本件犯行に至る経緯についてはA子らにも反省すべき点がある旨及び被告人の寛大な処分を希望する旨のA子作成の上申書が提出されるに至ったこと、被告人の姉夫婦の協力により被告人がA子らのいる大阪を離れて東京で再起を期すべく運送業の仕事に就く手筈ができていること、被告人は本件についての真摯な反省を更に深めていること、が認められ、これら原判決後の事情と前記した被告人のために斟酌すべき情状をあわせ考慮すると、所論のように刑の執行を猶予すべきものとは考えられないけれども、原判決の刑をそのまま維持することは相当でない。

よって、刑訴法三九七条二項により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書に従い更に判決することとし、原判決が認定した罪となるべき事実にその挙示する各法条(ただし、原判決三丁一〇行目の「暴力行為等処罰に関する法律一条、刑法二二二条一項、二項」とあるのを「いずれも暴力行為等処罰に関する法律一条、刑法二二二条一項(B関係については、更に同条二項)」と、同三丁裏一一行目の「第二の罪」とあるのを「前記第二のBに対する罪」と各訂正する。)を適用した刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中四〇日を右刑に算入することとし、押収してある自動装填式散弾銃一丁(当庁平成八年押第四四号の1)、茶色と黒色の皮製散弾銃ケース一個(同押号の2)及び替え銃身一本(同押号の3)は、原判示第二の許可にかかる銃砲を発射した罪及び原判示第三の許可にかかる散弾銃を正当な理由がある場合でないのに携帯した罪の各犯罪行為を組成した物で被告人以外の者に属しないから、いずれも同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを没収し、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角谷三千夫 裁判官 古川 博 裁判官 鹿野伸二)

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